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ロボットの輸送について

1. ロボットの輸送方法

FTCは現在、日本国内で公式大会が開催されていないため、大会に出場するには海外へ遠征する必要があります。日本のチームは主に韓国大会へ出場することが多く、その他にもアメリカやオーストラリアなどの大会も選択肢となり得ます。

移動手段は主に航空機となりますが、ロボットを運ぶには大きく分けて2つの方法があります。

① 輸送サービス(FedEx / DHL等)を使用する

  • メリット: 専門業者が扱うため非常に丁寧で、故障のリスクが低いです。指定の場所(現地のホテルや会場)まで直送してくれます。
  • デメリット: 送料が非常に高額になります。また、国によっては通関手続きに時間がかかり、チーム到着時にロボットが届かないリスクもゼロではありません。

② 飛行機の「預け入れ荷物」として運ぶ

自分の乗る飛行機に、スーツケース等と一緒に預ける方法です。多くのチームがコスト面からこの方法を選択しています。

  • メリット: 輸送サービスに比べ圧倒的に安価です(無料または追加料金程度)。常に自分と同じ便で移動するため、ロストバゲージがない限り到着と同時に受け取れます。
  • デメリット: 日本国外の空港の荷物扱いは決して丁寧ではありません。投げられたり積み重ねられたりすることを前提とした、頑丈な梱包が必要です。また、空港からホテルまでの移動は自力で行う必要があります。

2. ロボットの梱包(クレートの準備)

スーツケースにロボットをそのまま入れるのはサイズ・強度的に難しいため、クレートと呼ばれる専用の木箱を用意するのが一般的です。

箱の調達方法:買うか、作るか

箱を用意するには、以下の2つのアプローチがあります。

  1. 専門業者から木箱を購入する
    • 特徴: 梱包資材を扱う業者にオーダーメイドで発注します。プロが製作するため強度や仕上がりが確実です。予算に余裕がある場合や、製作リソースを節約したい場合に有効な選択肢です。
  2. 自分たちで木箱を作る
    • 特徴: ホームセンターで材料を揃え、チームで製作します。コストを抑えられ、直前のサイズ変更にも対応できます。

※本来であれば両方の方法について詳しく解説すべきですが、筆者のチームは毎年「2. 自分たちで作る」方法をとっており、業者への発注に関する知識や経験が不足しています。そのため、本記事では「自作する場合」に絞ってノウハウを解説します。


3. クレート自作のノウハウ

韓国やアメリカなど、海外の空港での手荒な扱いに耐えうる木箱を作るためのポイントを解説します。

① 自作のメリット:柔軟性

ロボットのサイズやアームの形状は、出発直前まで改良が続くことがよくあります。自作であれば、ロボットの最終形状に合わせて箱の内部を改造したり、サイズを微調整したりといった対応が可能です。

② 製作時の注意点

強度と材料

預け入れた荷物は積み重ねられます。ロボットを入れた箱の上に、他人の重いスーツケースが載せられることを想定してください。

  • 板厚: 基本的には 9mm厚以上 のベニヤ板(合板)を使用すると安心です。
  • 底板: ロボットの重量を支える底面は、さらに厚い 12mm厚 があれば安心です。 (FTCロボットでは9mm厚でも問題ないことは多い)
組み立て構造(角材の使用)

【重要】 ベニヤ板の断面(厚みの部分)に直接ネジを打つのは避けてください。強度が低く、輸送中の衝撃で割れる可能性が高いです。 下の画像のように、必ず箱の内側の角に 角材 を配置し、そこに対して面からネジを打つように設計してください。

開閉のしやすさ(保安検査対策)

空港の保安検査や税関では、中身の確認を求められることが多々あります。また、預け入れ後に検査員がバックヤードで開封することもあります。

  • ドライバーなどの工具がないと開かない構造は避けてください。検査時に無理やりこじ開けられ、箱が破損する恐れがあります。
  • 蝶番(ヒンジ)パッチン錠(掛け金) を取り付け、手で簡単に開け閉めできる構造にすることを強く推奨します。
重量のチェック

多くの航空会社では、預け入れ荷物の重量制限があります。 木製のクレートは想像以上に重くなります。「ロボット重量 + クレート重量」が規定内に収まるか、必ず事前に確認してください。

  • Tips: Autodesk Fusion等のCADで設計し、木材の物理マテリアルを適用することで、製作前に重量を見積もることが可能です。詳しくは「{使用CAD名} 重量予測」などで調べてください。
検疫を確認(木材規制)

国によっては木材の持ち込みに厳しい規制があります。

  • ベニヤ板(合板): 一般的に、製造過程で熱処理されている合板は検疫のリスクが低いとされています。
  • 無垢材(生木): 角材などに使用する無垢の木材は、国によっては持ち込み禁止であったり、ISPM 15(熱処理済みスタンプ) が必要になる場合があります。
  • 注意: 韓国やオーストラリアなど、渡航先の国が定める動植物検疫のルールを必ず自分たちで確認してください。万が一、検疫で没収されるとロボットなしで大会に出ることになります。なお、オーストラリアは他の国に比べて特に厳格な検疫体制をとっています。注意してください。

なお、以下にアメリカと韓国に持ち込む際に使える木材について明記します。両国共通の基準です。

建材の種類 持ち込み可否 解説・注意点
ベニヤ板 / 合板 (Plywood) ⭕ 可 製造工程で加熱・接着処理されている再構成木材。ISPM 15 の規制対象外であり、最も確実に安全な材料。
OSB 合板 ⭕ 可 木片を高温・高圧で圧縮成形した加工木材。合板と同様に植物検疫上は安全とされる。
LVL 材 (単板積層材) ⭕ 可 【おすすめ】単板を積層接着した構造材。見た目は厚いベニヤに近く、角材の代替として有力。再構成木材のためスタンプ不要。
防腐剤注入材 (緑色の木材) ❌ 不可 【危険】防腐処理は熱処理証明にならない。ISPM 15 スタンプがなければ没収対象。薬剤によりロボット部品の腐食リスクも高い。
無垢の角材 (杉・松など) ❌ 不可 天然木材は植物検疫の対象。ISPM 15 スタンプがなければ即廃棄や罰金のリスクあり。
2x4 材 / SPF 材 🔺 注意 ISPM 15 スタンプが明確に目視できる場合のみ可。スタンプの欠損・不鮮明な場合は不可と判断される可能性が高い。
なお上の表は、筆者が公開情報および実務上の事例をもとに独自に調査・整理した参考情報です。その正確性、完全性、最新性を保証するものではなく、本記事の内容を利用したことにより生じたいかなる不利益(機材の没収、罰金、競技参加への影響、輸送トラブル等)についても、筆者ならびにWikiの運営をはじめとするいかなる個人・団体は一切の責任を負いません。実際の持ち込み可否は各国の検疫当局や税関職員等の判断が最優先されるため、遠征や輸送の際には必ず最新の公式情報を確認してください。なお、本記事の内容は2025年12月時点のものです。
ホームセンターの活用

木材のカットは、ホームセンターの加工サービス(1カット50~100円程度)を利用することを推奨します。自力で切るよりも精度が高く、圧倒的に早く仕上がります。

キャスタの設置

重量とサイズに余裕があれば、底面にキャスタを付けると移動が楽になります。空港や電車内での勝手な転がりを防ぐため、必ずストッパ付きを選んでください。

ロボットの固定

箱の中でロボットが動かないよう、底板にドリルで穴を開け、太めの結束バンドを通してロボットを底板に固定してください。隙間には緩衝材を詰めます。

ラベリング

箱の外側には、誰が見ても扱いが分かるように表示をします。なお、この情報は日本語と英語2つ併記した方が良いです。

  • 天地無用:This Side UP」の文字と上向き矢印(⬆)。
  • 取扱注意:Fragile」。
  • チーム情報: チーム名、連絡先などを英語(韓国に行く場合は韓国語も併記すると親切)で記載して貼り付けます。