CADソフトの選び方
ロボット設計のためのCADソフトガイド
1. はじめに:CADは必須ではない
CADソフト (Computer Aided Design) は、設計作業をコンピュータ上で行い、効率的に進めるための強力なツールです。
しかし、ここで強調しておきたいのは、CADソフトは必須ではないということです。FTCロボット程度の小規模な設計であれば、紙やホワイトボード、そして実際に部品を手に取るトライ&エラーだけでも十分に可能です。CADソフトを導入する労力が大きいと感じるチームは、導入しないという選択肢も有効です。
CAD導入の主なメリット
CADは必須ではありませんが、以下のような活動をしたい場合は、導入を推奨します。
- 部品の互換性チェック: REV RoboticsやgoBILDAなどのサプライヤーが提供する3Dモデルを読み込み、実際に購入する前に、ネジ穴の位置や干渉がないかを正確に確認できます。
- チーム内での情報共有: クラウドベースのCADを使えば、複数のメンバーが同時に、あるいは遠隔で設計の進捗を確認・編集できます。
- カスタムパーツの作成: 3Dプリンターやレーザー加工機でオリジナルパーツを作るために必要なデータ (STLやSTEPファイルなど) をCADソフトを使って簡単に作成できます。
2. CADソフトの種類と特徴
FTCの設計で使用される代表的なCADソフトの特徴を、チーム環境や目的に応じて比較します。
① Autodesk Fusion (旧 Fusion 360)
| ライセンス | 学生・教育者向けライセンスで無料 |
|---|---|
| 環境 | インストール型(Windows / Mac) |
| 推奨度 | 【第一推奨】 特に日本のチームで利用者が多い、多機能なオールインワンソフト。 |
多くのFTC/FRCチームで採用されている、非常に強力な3D CADソフトウェアです。日本チームではほとんどのチームがAutodesk Fusionを採用しています。
- クラウドベース: 設計データはクラウド上で共有されるため、チームメンバーとの共同作業や進捗管理が容易です。
- 多機能性: 設計 (CAD) だけでなく、解析 (CAE) や切削加工 (CAM) 機能も統合されており、将来的に高度な加工を行う際にも対応できます。
【導入時の注意点】
非常に高機能な分、スムーズに動作させるためにはある程度のPCスペックが求められます。学校支給の低スペックなPCやタブレットでは、動作が重く、まともに動かない可能性があることに注意です。
② Onshape (オンシェイプ)
| ライセンス | 学生・教育者向けライセンスで無料 |
|---|---|
| 環境 | 完全ブラウザベース(PCへのインストール不要) |
| 推奨度 | 【低スペックPC環境に最適】 PCスペックに依存したくないチーム向け。 |
近年のロボコン界隈で急速に利用者を増やしている、ブラウザ上で動作するCADソフトです。
- PCスペック不問: 最大の特長は、ブラウザさえ動けばPCのスペックをほぼ問わない点です。低価格なChromebookでも快適に動作し、設計環境を平等に提供できます。
- 同時編集: Googleドキュメントのように、複数のメンバーが同時に一つのファイルを編集できる機能が非常に強力です。
- 常時接続必須: すべてのデータがクラウド上にあるため、オフラインでの作業はできません。
③ SOLIDWORKS
| ライセンス | 有料 (教育機関ライセンス等で利用可) |
|---|---|
| 環境 | インストール型 |
| 推奨度 | 【業界標準】 将来、機械設計のプロを目指す人、企業との連携を重視したいチーム向け。 |
世界の製造業で最も使われているCADソフトの一つです。また、海外チームの多くはSOLIDWORKSを使っています。
- 業界標準: 大学や企業の設計現場では標準的に使われているため、SOLIDWORKSを習得することは、将来のキャリアに直結します。
- 学習コスト: 高機能ですが、学習コストも高めです。FTCの短いビルディングシーズンで一から習得するのは難しい場合があります。
- ライセンス: 基本的に有料です。ただし,FTC/FRCチームはSOLIDWORKSを無料で使用することができます.
④ FreeCAD (フリーキャド)
| ライセンス | 完全無料(オープンソース) |
|---|---|
| 環境 | インストール型 (Windows / Mac / Linuxi) |
| 推奨度 | 【信念と知識を持つチーム向け】 ライセンスやクラウドに依存したくないチーム向け。 |
コミュニティによって開発されているオープンソースソフトウェア (OSS) です。特定の企業のライセンスやクラウドに縛られずに、完全に無料で利用できます。
- OSSの精神: 企業の都合に左右されず、すべてのデータはローカルで管理されます。Linux環境で作業したいユーザーにとっては有力な選択肢です。
- 拡張性: 有志が開発した多くのアドオン (拡張機能) により、機能を自由にカスタマイズできます。
【注意点】
他のソフトに比べて、FTC界隈での情報や部品ライブラリの連携が少なく、操作の習得にも時間がかかる場合があります。このソフトを導入する場合は、メンバーが自力で情報を探したり、使い方を調べたりする高い意欲が必要になります。
3. CADソフト比較表
| 項目 | Autodesk Fusion | Onshape | SOLIDWORKS | FreeCAD |
|---|---|---|---|---|
| 費用 | 学生無料 | 学生無料 | 有料FTC/FRCチームは無料 | 完全無料 (OSS) |
| 動作環境 | PCインストール | ブラウザ | PCインストール | PCインストール (全OS対応) |
| PCスペック | 高い性能が必要 | 低スペックOK | 中~高スペック | 中スペック |
| 共同作業 | クラウド共有 | 同時リアルタイム編集 | ファイル共有 | ローカル管理 |
| 主な特長 | オールインワン、情報豊富 | 動作が軽い、環境を選ばない | 業界標準、堅牢な機能 | OSS、オフライン作業可 |
| 向き不向き | チームでの共同開発、CNC加工 | 低スペックPC、同時作業が多い | 将来のプロ志望、企業連携 | ライセンスに縛られたくない |
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